河川敷の公園を眺めながら下校していると、夕日の暑さが、目の上の切り傷にしみて熱い。
公園では、うちの体操服や、部活のユニフォームを着た運動部たちが、野太い声を出しながら部活に精をだしている。僕の手足がもう少し太かったら、あんなふうに動くことができたんだろうか。
いや、動けたとしても。
もっと動けるやつに吹き飛ばされて終わる。ラグビーなんかその典型だ。外国の選手に、日本のラガーマンがおもちゃみたいに倒される。まったく夢もクソもない。負け犬は努力したって負け犬だ。遺伝は……ましてや病気はどうにもならない。
そんないつもの風景に、最近はちがう競技をみつける。
ラグビーボールを使っているけれど、ラグビーではない。腰にひらひらしたのをつけて、しっぽ取りみたいだ。そういえば、小学校の体育でやったことがある気がする。名前はたしか、たしか――。
一台の自転車が僕を追い越す。
のぼりを背負って、変なことを叫びながら、颯爽と髪をなびかせる、若い女の人。この人も、ここ一か月ぐらい、この時間帯に見るようになった。
もう五月なのに。
春先に現れるはずの不審者が、時間差で出てきたのだろうか。
その人が自転車を止めて、僕を振り返った。いつも追い越されていたから、はじめて顔を知る。
きれいだと思った、
不審者なのに。妙に目がらんらんとしていて、目が合うとにやっと笑った。
「また会ったね」と、その人は言った。
*
「タグフットボール、タグフットボールはいらんかね~」
わたしはこの一か月、チーム集めに奔走している。
のぼりに書いた『タグフット! チームメイト募集! 』の墨字は、小学生のときの習字セットを引っ張り出して、一発で書いたものだ。読んで字のごとく、タグフットボールのチームを募集している。チーム名は――神さまの啓示待ち。
「友だちには全員断られたけど、一年がんばれば十人ぐらいは集まるよね。たぶん」という心もちで日々東奔西走……とはいえ、もう五月。全国大会に出るためには、三月末の西日本大会に出て勝たなきゃならない。最低でもわたし含めて十人の登録が要る。
「タグ、タグ楽しいよ~」
夕方、バイトを終え、練習場所の河川敷公園へ向かう道中。
ふと思う。
突然の自分語りで申しわけないけど、わたしはスタイルにも運動神経にも、家庭環境にも恵まれた。性格もわれながら明るい。明るすぎる。だから、あのまま短距離を続けていたら、メダルだって狙えたかもって。
でも、思った。
「わたしの人生、これでいいんだろうか」と。
わたし一人が良い記録を出す?
注目されてチヤホヤ?
最後はお金持ちかイケメンと結婚して出産?
そんな人生に、面白みなんてあるんだろうか。
かといって、メジャーなスポーツには普通の人しかいない。勝ちが好きで、勝って得られる名誉がもっと好きで、負けが死ぬほど嫌いな人たち。スコアボードの数字から、数字以上のものを読み取れない人たち。
そんなことなら、もっと色んな人と協力して、男女の垣根も年齢も越えて、一つのチームになって戦える、そんなスポーツでわたしは勝ちたい。どうせ勝つならね。
そして、その男の子と出会った。
キッカケは、わたしが練習場所へ向かうタイミングと、その子が下校するタイミングが偶然同じだったこと。それが、なんと、これまた偶然にも一か月ぐらい続いて、大体その子のことが分かってきて、いよいよ声をかけた。
「また会ったね! 」
やさしい日本語
僕は、学校から家へ帰る途中、川のそばの公園を見た。夕日の熱さが、目の上の切り傷にしみて、痛くて熱い。
公園では、僕の学校の体操服や、部活動の服を着た生徒たちが、太い声を出して練習している。僕の手や足がもう少し太かったら、あんなふうに動けただろうか。
いや、動けたとしても。
もっとよく動ける人に吹き飛ばされて、終わるだろう。ラグビーがそうだ。外国の選手は、日本のラグビー選手を、おもちゃのように倒す。夢も何もない。くそ、と思う。負ける人間は、いくらがんばっても負ける人間のままだ。親からもらった体の特徴は変えられない。病気なら、もっとどうすることもできない。
最近、いつもの景色の中に、ちがうスポーツを見つけた。
ラグビーのボールを使っている。でも、ラグビーではない。腰にひらひらした布をつけている。しっぽ取りのようだ。そういえば、小学校の体育でやったことがある気がする。名前は、たしか……たしか――。
一台の自転車が、僕を追い越した。
若い女の人が、のぼりという細長い旗を背中につけている。変なことを叫びながら、元気よく自転車を走らせ、髪を風になびかせている。この一か月くらい、いつもこの時間に見る人だ。
もう五月なのに。
怪しい人は春の初めに出てくるはずなのに、この人は遅れて出てきたのだろうか。
その人は自転車を止めて、僕の方を見た。いつも僕を追い越すだけだったから、顔を見るのは初めてだ。
きれいだ、と思った。
怪しい人なのに。目が不思議なくらい明るく光っている。僕と目が合うと、にやっと笑った。
「また会ったね」と、その人は言った。
*
「タグフットボール、タグフットボールを一緒にやりませんか~」
この一か月、わたしはチームの仲間を探して、あちこちへ行っている。
のぼりには、『タグフット! チームメイト募集!』と墨で書いた。小学生のときに使った習字の道具を出して、一度で書いた。書いてあるとおり、タグフットボールのチームの仲間を探している。チームの名前は、まだ決めていない。神さまが教えてくれるのを待っている。
友だちには、みんな断られた。でも、一年がんばれば十人くらい集まるよね。たぶん。そう思って、毎日あちこちへ行っている……でも、もう五月だ。全国大会に出るには、三月の終わりにある西日本大会で勝たなければならない。大会に出るには、わたしを入れて、少なくとも十人が登録しなければならない。
「タグ、タグは楽しいよ~」
夕方、アルバイトが終わった。わたしは、練習する川のそばの公園へ向かう。
その途中で、ふと考えた。
急に自分のことを話して、ごめんなさい。わたしはスタイルがいいし、運動も得意だ。家でも、安心して暮らせている。自分で言うのも変だけど、性格も明るい。明るすぎるくらいだ。だから、あのまま短い距離を走る競技を続けていたら、メダルを取れたかもしれない。
でも、こう思った。
「わたしの人生、このままでいいのかな」と。
わたし一人で、いい記録を出す?
みんなに注目されて、たくさんほめられる?
最後は、お金持ちか、かっこいい男の人と結婚して、子どもを産む?
そんな人生は、おもしろいのかな。
でも、有名なスポーツには、よくいるような人ばかりだ。勝つのが好きで、勝って名前が知られることがもっと好きで、負けるのは死ぬほど嫌いな人たち。試合の点数を見ても、数字しか見ない人たち。数字より大切なことは見ようとしない。
それなら、もっといろいろな人と力を合わせたい。男か女か、何歳かは関係ない。一つのチームになって戦えるスポーツで、わたしは勝ちたい。どうせ勝つならね。
そして、あの男の子と出会った。
わたしが練習する場所へ向かう時間と、その子が学校から家へ帰る時間が、たまたま同じだった。その偶然が、一か月くらい続いた。わたしは、その子がどんな子か、だいたい分かってきた。そこで、やっと声をかけた。
「また会ったね!」